Ozone 9 Elementsで音が遅れる(ずれる)問題対策として使える「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能
マスタリング用ソフトとして強力なiZotope社のOzoneシリーズ。
今回は「Ozone 9 Elements」の「Delay Compensation」機能の使い方、効果、注意点などについてお伝えします。
ズバリ、こんな方におススメの内容です。
- Ozoneシリーズを使ってみたけれど音が遅れてしまって困っている
- Ozoneの「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能は本当に頼れるのか気になる
マスタリング処理自体はきれいにできても、遅延によってトラック間の音がずれていたり、音源の末尾がぶつ切りになってしまっていたりしたら、台無しですよね?
しかし、そこは定評あるOzoneシリーズ。
そうした問題を半ば自動的に解消してくれる機能があるのです。
それが今回取り上げる「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能。
これをうまく使いこなせば、
- DAWソフトなどで各トラックに挿入して使う場合でもトラック間のずれが解消する
- 末尾と冒頭がつながるループ音源を作る場合でも安心して処理できる(ループ関係が崩れない)
といったメリットがあります。
ソフトによってはこの機能が有効に働かない場合もありますが、音の遅れが発生する場合、
まずはこの「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能を有効にするところから始めるのがおススメです。
それでは以下、詳しくみていきましょう!
- 1.波形遅延により何が問題になるのか?
- 2.遅延のレベル感や発生条件など
- 3.遅延問題対策~「Delay Compensation」機能の設定方法~
- 4.「Delay Compensation」機能使用時の注意点
- 5.最後に
1.波形遅延により何が問題になるのか?
音の遅延というのは、処理前の波形に対して、処理後の波形が時間的に遅れることです。
例えば、
「処理前の波形では1sジャストのタイミングでドラムが入るトラックが、処理後の波形では1s+20msのタイミングでドラムが入る」
といったように、
「波形全体が遅れ方向にずれてしまう」
状況を指します。
「全体がずれるだけなら問題ないんじゃないの?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、このような遅延が生じた場合、次のような問題が出てきます。
- DAWソフトなどでのマルチトラック処理で各トラックに使う場合にトラック間のタイミングが崩れる
- ループ音源を処理する場合にループ関係(末尾と冒頭がつながる)が崩れる
Ozone 9 ElementsなどのOzoneシリーズでは、DAWソフト上でプラグインとして使用することができます(DAWソフトにも依りますが)。
そのため、マスタートラックだけでなく、
「ドラムやベースといった、各楽器のトラックに対してOzoneプラグインの処理をかける」
といった使い方をすることも少なくないと思います。
そうした場合、例えば、
「トラックAでOzoneを使用するが、トラックBでは使用しない」
といったときには、
Ozoneを使用しないトラックBに対して、Ozoneを使用するトラックAの音が遅れることになります。
するとどうなるか。
Ozoneを使う前には合っていた、トラックAとトラックBのタイミングが、合わなくなってしまいます。
これは困りますよね?
また、このように個別のトラックに対して使う場合だけでなく、
(全トラックを束ねた)マスタトラック一本に対して使う場合でも、ループ音源の場合には問題が生じてきます。
ループ音源というのは、いわばエンドレスリピート再生可能なように、末尾と冒頭がつながるように処理された音源のことです。
このような音源では、冒頭や末尾に、こうしたエンドレスリピートを妨げるレベルの無音部分などがあってはなりません。
また、冒頭や末尾に、一部欠けがあってもなりません。
こうした冒頭や末尾がシビアな音源に、このような遅延が生じるとどうなるか。
まず、冒頭に余計な無音部分が生じます。
この時点でアウト。
次に、全体の時間長さが変わらない場合は、末尾が欠けることもあり得ます。
もうダメダメですね。
というわけで、ループ音源を扱う場合でも、全体的な遅延自体が致命的な問題になってきます。
2.遅延のレベル感や発生条件など
1でお伝えした通り、Ozoneの処理で音の遅延が生じると、色々とやっかいな問題につながります。
とすると、次に気になるのは以下のような点ではないでしょうか?
- どのぐらいの遅延レベルなのか?
- どういった場合に遅延が生じるのか?
今回はこういった点について手持ちのソフトで確認してみました(Ozone 9 Elementsで)。
確認に使用したのは以下2つのソフトです(同じPCにインストール)。
- ACID Pro 8(DAWソフト)
- SOUND FORGE Audio Studio 12(波形編集ソフト)
2-1.どのぐらいの遅延レベルなのか?
使用環境によるかもしれませんが、今回の使用環境では以下の特徴が確認できました。
- Ozone 9 Elementsデフォルト設定でも16.3ms程度の遅延が生じる
- Ozone 9 Elementsの設定内容によっては100ms以上ずれることもある
10数msの遅延だと、場合によってはあまり気付かないこともあるかもしれませんが、
100ms以上となると、これは無視できませんね。
2-2.どういった場合に遅延が生じるのか?
遅延量の決まり方、発生条件などについて、以下の特徴が確認できました。
- 遅延量はサンプル値ベースではなく時間ベースで決まっている模様
- 遅延量はOzone 9 Elementsの設定内容によって変わる(対象とする波形などには依存しない模様)
- Ozone 9 Elements画面内の「Bypass」ボタンを押しても遅延が生じる
- Ozone 9 Elementsプラグイン自体をソフト側(呼び出し元)でバイパスさせると遅延しない(もちろんOzoneの処理もされない)
対象とする波形がどうあれ、設定内容が同一(例えば同一のプリセットを使用した場合など)であれば、同じ遅延時間となります。
同一になるのは、サンプル数ではなく、遅延時間なので、対象のサンプリング周波数が変われば、遅延サンプル数も変わります。
また、Ozone 9 Elementsの画面内にはOzone処理をバイパスする「Bypass」ボタンがありますが、こちらを押して処理自体を無効化しても、遅延だけは生じます。
しかし、同じバイパスでも、Ozone 9 Elementsプラグイン自体をソフト側(呼び出し元)でバイパスさせる分には、遅延は生じません。
もちろん、このような場合にはOzone処理もされないので、これが遅延問題の解決になるわけではありませんが。
3.遅延問題対策~「Delay Compensation」機能の設定方法~
これまで見てきた遅延の問題。
これを解消する有効な方法の一つが「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能の使用です。
以下、Ozone 9 Elementsをプラグインとして使用する場合の手順を示します。
(2で示した使用環境での手順ですが、設定画面自体はOzone 9 Elements側のものですから、ご参考になるかと思います。)
- 使用ソフトで「Ozone 9 Elements」をプラグインとして立ち上げる
- 右側の歯車ボタン(カーソル長当てで「Open the Ozone 9 Settings window」と表示)を押す
- 「Ozone 9 Elements Options」画面が表示される
- 「General」タブを選択、右下の「Plug-in Host」のメニュー「Delay Compensation」選択
- 「Enable delay compensation」にチェックを入れる
- 右下の「Unfreeze」を押す(既にグレーアウトされていればそのまま)
- 「close」を押して設定画面を閉じる
以上の操作で「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能は有効になります。
なお、上記では6番目の手順において「Unfreeze」を選択するようにしました。
これは「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能の遅延補償量を、Ozone 9 Elementsの設定内容に応じて自動調整してくれるモードです。
例えば、
「16.3ms遅れる設定なら16.3ms分の、121ms遅れる設定なら121ms分の遅延補償量を適用する」
といった具合です。
2でお伝えしたように、Ozone処理による遅延量はOzone側の設定内容によって変わります。
ですので、基本的には設定内容に応じて調整してくれる「Unfreeze」で使用すればOKだと思います。
では「Unfreeze」の逆、「Freeze」にするとどうなるのでしょうか?
「Freeze」にするとその名の通り、遅延補償量が固定、それもサンプル値ベースで固定となります。
「サンプル値ベースで固定」ですから、処理対象のサンプリング周波数が変われば、遅延補償量の時間も変わります。
個人的には、あえてこの「Freeze」設定を使うメリットを感じませんが、「遅延補償量のサンプル値を固定で設定したい」という場合には、この設定を使うことになるかと思います。
4.「Delay Compensation」機能使用時の注意点
ここまでお伝えしてきた通り、「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能は「設定内容に応じてその遅延補償量を自動調整できる」便利なものですが、主に以下2点、注意が必要です。
- ソフトによっては機能が有効に働かない場合がある
- 一度設定変更すると、その変更内容が他の使用箇所でも反映され得る
4-1.ソフトによっては機能が有効に働かない場合がある
私が確認した限り、
DAWソフト「ACID Pro 8」では有効に働きましたが、
波形編集ソフト「SOUND FORGE Audio Studio 12」では、有効に働きませんでした(設定の有効無効に関わらず、常に遅延発生)。
このように、使用ソフトによってはこの機能が実質使えない場合があります。
そうした場合、他に手立てがなければ「手動調整」ということになります。
手動調整の例としては、本ブログ内の以下記事でも取り上げていますので、ご参考にしていただければ、と思います(以下記事ではOzoneバージョンが異なりますが、方法自体は変わりません)。
4-2.一度設定変更すると、その変更内容が他の使用箇所でも反映され得る
また、「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能の設定を変更(Enable、Freeze、Unfreeze)すると、他の使用箇所でもその設定内容が反映され得ます。
操作状況や使用環境によっては、反映がされない場合もあるかもしれませんが、私の使用状況では反映される挙動となりました。
この点、機能設定内容を「Unfreeze」(自動調整)にしていれば、基本的に問題ありませんが、「Freeze」(固定値)で使用する場合などには注意が必要です。
5.最後に
以上、Ozone 9 Elementsの「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能の使い方、効果、注意点などを中心にお伝えしてきました。
ここで要点をまとめます。
- Ozone 9 Elementsを使用すると音の遅延が生じ得る
- 基本的には「Delay Compensation」機能を有効にすることで遅延補償(解消/改善)が可能
- 基本的には「Unfreeze」(遅延補償量自動調整)モードでの使用がおススメ
- ソフト(呼び出し元)によっては「Delay Compensation」機能が有効に働かない場合がある(手動調整など別対策が必要)
「Delay Compensation」機能が有効に働かないときの別対策例としては、以下記事をご参考にしていただければ、と思います。
「Delay Compensation」機能をうまく使いこなせば、
- DAWソフトなどで各トラックに挿入して使う場合でもトラック間のずれが解消する
- 末尾と冒頭がつながるループ音源を作る場合でも安心して処理できる(ループ関係が崩れない)
といったメリットがあります。
私の制作環境上の話でいえば、
波形編集ソフト「SOUND FORGE Audio Studio12」で有効にならないのが残念ですが、DAWソフト「ACID Pro 8」では有効に使えるので、基本的には
「Ozone 9 ElementsはACID Pro 8上で使用していく方向かなぁ・・・」
と思っています。
今回のこの記事が、
- Ozoneシリーズを使ってみたけれど音が遅れてしまって困っている
- Ozoneの「Delay Compensation」(直訳:遅延補償)機能は本当に頼れるのか気になる
といった方のご参考になれば幸いです。