音を重ねて録音(多重録音)する方法
「自分の歌や演奏を録音したい!」
今はPCソフトやスマホアプリなども発達していますから、録音だけであれば簡単にできます。
また、
「カラオケ店に行かず、自宅などでカラオケしたい!」
という場合でも、今は手持ち音源からカラオケ音源作成が行えるソフト(例:以下)が充実していますから、それも簡単に行えます。
本ブログの以下記事でも取り上げています。
が、こうして録音やカラオケを楽しんでいるうちに、次のようなことを思うようになるのではないでしょうか?
- 色んな楽器の音を混ぜてみたい
- カラオケ音源化(ボーカル消去(削減))で失われた楽器パートを補いたい
こうしたことを行うには
「音を重ねて録音する(多重録音)」
ということが必要になってきます。
その方法には様々なものがありますが、大きくは次の2つのアプローチに分かれます。
- 「リアルタイムで音を重ねる」方法
- 「録音後の編集で音を重ねる」方法
両者の特徴を大まかに述べますと、
- 細かい調整などはできないが手軽なのが「リアルタイムで音を重ねる」方法(パパっとやりたい人向け)
- 手間はかかるが細かい調整が可能なのが「録音後の編集で音を重ねる」方法(じっくり作り込みたい人向け)
といったところです。
最初は色々覚えることも多いですので、
まずはどちらか1つの方法に慣れるようにし、
ゆくゆくは状況に応じて使い分けられるようになるとよいかと思います。
それでは以下、詳しくみていきましょう!
1.多重録音に必要なことと2つの方針
まずはじめに、多重録音で「何が必要なのか?」という点(要件)について述べます。
多重録音、すなわち音を重ねるためには次の2つのことが必要となります。
- 元音源のテンポに基づいて録音できること
- 合わせたい位置で波形を重ねられること
これらの要件を満たすためにとるべき方針としては、次の2つが挙げられます。
- リアルタイムで音を重ねる
- 録音後の編集で音を重ねる
これらはどちらか1つを選択すれば十分ですが、
両方実施、すなわち「リアルタイムで音を重ねてから、さらに編集で音を重ねる」という手もアリです。
以下、両者の特徴を少し詳しくみていきましょう。
まず前者「リアルタイムで音を重ねる」方法の特徴を挙げますと、
- (メリット)後処理がほとんど不要で楽
- (デメリット)録音後の修正がほとんどできない
といったところです。
メリット、デメリットとありますが、これらは裏返しです。
この方法では「リアルタイム」で音を重ねてしまうので、後処理でできることとしては、
- 録音波形冒頭/末尾のラグ部分のカット
- 全体的な音量/音質などの調整
ぐらいです。
それも用途に応じて「気になるのであれば」レベルの話なので、これらを省略しても「多重録音」としては成立します。
そのため、
- 録音内容に問題がない
- 最終結果(音が重なった状態)に問題がない
のであれば、こうした特徴がメリットとなります。
しかし、何らか問題があって「直したい」というようなときには、こうした「後処理でできることが限られている」という特徴がデメリットとなります。
続いて「録音後の編集で音を重ねる」の特徴について。
- (メリット)細かい調整が可能
- (デメリット)後処理が必要で面倒
こちらもメリット、デメリットが裏返しの関係になっています。
この方法では、
- 録音は個別
- 音を重ねて出力するのは録音後
というスタイルなので、
- パートごとの音量/音質調整
- 録音テイクの切り貼り
といった作業が自在に行えます。
リアルタイムで
- 音量バランスよし
- 録音内容よし
という状態が実現できない場合には、こうした作業自由度の高さがメリットになります。
しかし、
- 「調整はそれなりにパパっとやりたい」
- 「リアルタイムですべてOKにできる」
といった状況であれば、こうしたプロセスを踏むことが面倒に感じます。
もちろん、調整が不要であれば調整しなければよいわけですが、
それでも最低限「音を重ねて出力する」作業を別途行わなければならず、「リアルタイムで音を重ねる」方法に比べると、
その点でもひと手間かかることになります。
以上、2つの方法の特徴についてみてきましたので、
以降は各方法の実施手順についてみていくことにしましょう。
2.リアルタイムで音を重ねる
ここでは工程の全部または一部においてPCを使うことを想定した手順を示します。
作業の大まかな流れは以下の通りです。
- 録音設定
- 録音
- 後処理
2-1.録音設定
「リアルタイムで音を重ねる」方法では、次の2つが必要となります。
- PCへ入力した音をPC上で再生できる状態にしておく
- PC上の音を録音できる状態にしておく
この方法では、
音を重ねる対象の音源(元音源)をPCで再生しながら、それに合わせて同時に演奏、それらを一挙に録音する
というスタイルをとります。
従って、音を重ねる対象の音源(元音源)と同時に、PCへ入力した音も再生されるように設定しておく必要があります。
PCへ入力した音が再生できるソフトの例としては、
- AmpliTube(ギター/ベース入力)
- SampleTank(鍵盤(MIDIキーボード)入力)
といったものがあります。
音色などは限定されますが、無料でもそこそこの種類の音が出せて楽しめる良質なソフトだと思います。
なお、AmpliTubeについてご興味のある方、音色(アンプモデルなど)を拡充したいという方は以下記事もご参考にしてみて下さい。
また、PC上の音を録音する方法としては、
- PC上で録音ソフトを使って録音
- PC上で再生される音を外部出力して外部録音機器(ICレコーダーなど)で録音
の2つがあります。
1つ目の方法はPCで全て完結する点で楽なので、基本的におススメです。
が、録音ソフトの扱いに慣れていなかったりすることもあるかと思います。
そのような場合には2つ目の方法が有力となるでしょう。
なお、2つ目の方法を使う際に必要となる「PC上で再生される音の外部出力」ですが、最も簡単な方法は、
「PC本体のヘッドホン出力と外部録音機器の入力を接続する」
です。簡単とはいえ、接続前には各々の端子仕様を確認して、必要なケーブルを間違えないようにしましょう。
2-2.録音
録音設定が完了したら、いよいよ録音です。
作業の流れは以下の通りです。
- PC上の音の録音開始
- PC上のプレイヤーで音を重ねる対象の音源(元音源)を再生
- PCへ音を入力
- PC上の音の録音終了
PC上の録音ソフト、または外部録音機器の録音ボタンを押した後、重ねる対象の音源(元音源)をプレーヤーで再生します。
プレーヤーで重ねる対象の音源(元音源)を再生し始めたら、それに合わせて演奏(音を入力)します。
重ねる対象の音源(元音源)の再生、演奏の録音、両方完了したら、録音停止させて録音終了とします。
2-3.後処理
上でも述べた通り、こちらの方法では後処理は必須ではありません。
2-2の段階で既に音の重なった音源が出来上がっているためです。
しかし、そのままだと次のような点で不満などが出てくるかもしれません。
- 音量をもっと大きくしたい
- 音質を変えたい
- 冒頭/末尾の無駄時間(≒無音時間)を削りたい、あるいは伸ばしたい
こうした場合には、波形編集ソフトを使って、得られた音源ファイルを加工する必要があります。
(ICレコーダーなどの外部録音機器を利用して録音した場合は、事前にPCへ音源ファイルを移動させる必要があります。)
波形編集ソフトの例としては、ソースネクストなどで購入可能な「SOUND FORGE」シリーズがあります。
私は現在、少し古い「SOUND FORGE Audio Studio 12」を使っていますが、上で挙げたような処理であれば、操作そのものは簡単に行えます。
もっとも、「納得のいく仕上がりを目指す」となると、そこは自分との格闘になるので、泥沼にハマる可能性も少なくはないですが・・・
なお、波形編集ソフトで読み込めるファイル形式には制限があるものですので、事前によく確認しておきましょう。
3.録音後の編集で音を重ねる
ここでも工程の全部または一部においてPCを使うことを想定した手順を示します。
作業の大まかな流れは以下の通りです。
- 録音設定
- 録音(またはMIDIパターン入力)
- 後処理
こちらの「録音後の編集で音を重ねる」方法では、上記2番目のフェーズにおいて、次の2つのアプローチがとれます。
- 元音源/メトロノームを聴いてテンポを確認しながら演奏を録音
- 元音源のテンポに基づいてMIDIフレーズパターンを入力(マウス or MIDIキーボード)
1つ目のアプローチは、演奏録音時に聴く音源が必ずしも元音源でなくてもよいという点が異なるだけで、「リアルタイムで音を重ねる」方法のときとほぼ同じです。
2つ目のアプローチは、こちらの「録音後の編集で音を重ねる」方法ならではのもので、次のような状況において特に有効です。
- きっちりした演奏パターンを作りたい
- リアルタイムで演奏できない
この「MIDIパターン入力」というのは、いわば「楽譜を作る」ようなアプローチです(より厳密にいえば、楽譜以上に細かい演奏ニュアンスの設定なども可能なのですが)。
ですので、自分ではリアルタイムで演奏を重ねるのが難しい楽器/フレーズでも、
しっかりと元音源に合ったフレーズパターンを作り込むことができます。
なお、こちらの「録音後の編集で音を重ねる」方法を選ぶ場合、DAWソフトがあれば便利です(「DAW」とは「Digital Audio Workstation」の略)。
DAWソフトというのは、統合的な音楽制作環境を提供するソフトウェアで、
これがあれば各フェーズをほとんど全て1ソフトで完結することができます(後処理ではどのみち波形編集ソフトが必要となるケースも少なくないと思いますが)。
DAWソフトの例としては、ソースネクストなどから購入可能な「ACID」シリーズなどがあります。
ACIDシリーズについては、私も長年使用しており、本ブログでもいくつか記事にしておりますので、ご興味のある方はご参考にしてみて下さい。
とはいえ、
- 「DAWソフト?何となく敷居が高そう」
- 「統合的な音楽制作環境?何となく難しそう」
などと思われる方も少なくないと思いますので、
以降ではDAWソフトを使用しない場合を中心に説明していきます。
3-1.録音設定
ここでは次のように設定しておきます。
- PCまたは外部録音機器へ入力した音を録音できる状態にしておく
- PCまたは外部録音機器へ入力した音を再生できる状態にしておく(必須ではない)
「リアルタイムで音を重ねる」場合とほとんど同様ですが、こちらの方法ではリアルタイムで音を重ねるわけではないので、2つ目の項目は必須ではありません。
PCまたは外部録音機器へ入力した音を、(PCや外部録音機器からではなく)別のところから聞こえるようにしておくこともできます。
例えばエレキギターの場合。
- 録音自体はアンプやアンプシミュレータ(AmpliTubeなど)を通した音
- 演奏中のモニタは楽器の生音
といったスタイルも可能です。
そもそも「録音さえできればいい」という考えからすれば「演奏中の音を一切聞かない(モニタしない)」というのも一つの手です。
が、「演奏している最中の音が聞こえない状態で演奏する」というのは、非常にやりづらいと思います。
ですので、何かしらの形で演奏中の音が聞けるようにしておくことをおススメします。
3-2.録音
録音設定が完了したら、いよいよ録音です。
作業の流れは以下の通りです。
- PCまたは外部録音機器へ入力した音の録音開始
- 元音源、または元音源のテンポに合わせたメトロノーム音を聞きながら演奏(録音)
- PCまたは外部録音機器へ入力した音の録音終了
3-3.MIDIパターン入力
3-2の「録音」の代わり、または「録音」に加えて使えるアプローチです。
PCソフトを利用してフレーズパターンを入力していきます。
MIDIパターン入力可能なPCソフトの例としては、楽譜作成ソフトの「musescore」が挙げられます(無料版あり)。
MIDIパターン入力にあたっては、元音源のテンポを把握し、それを入力パターンのテンポとして設定する必要があります。
そのため、重ねる対象の元音源のテンポが一定でない(フリーテンポ)場合だと対応が難しくなります。
が、MIDIパターンの状態ではいつでもテンポ変更できますし、
フレーズの途中で変更することもできますので(ソフトによるかもしれません)、
試行錯誤的にフリーテンポに対応させることも不可能ではありません。
パターン入力が終わったら、後処理で音を重ねるためにwavなどの音声ファイル形式で出力します。
上で挙げた楽譜作成ソフトのmusescoreでもwavファイル形式での保存が可能です。
3-4.後処理
録音やMIDIパターン入力が終わったら、音を重ねる後処理に移ります。
大まかな作業の流れは以下の通りです。
- 元音源と追加録音音源のタイミングを合わせる
- 元音源と追加録音音源の音量バランスを整える
- その他調整編集(音質調整、エフェクト追加など)
- 調整して重ねた後の音声ファイルを出力
これらの作業は、先ほど言及したDAWソフトがあればかなり楽になりますが、
DAWソフトがなくても波形編集ソフトがあれば可能です。
なお、先ほどもお伝えしましたが、ソフトで読み込めるファイル形式には何らか制限のあることが多いので、事前によく確認しておきましょう(DAWソフトでも波形編集ソフトでも)。
波形編集ソフトの例としては、ソースネクストなどから購入可能な「SOUND FORGE」シリーズが挙げられます(先ほども紹介しましたが)。
さて、波形編集ソフトでこれらの作業を行う際のコツについて、ここでいくつかお伝えしておきます。
まず「元音源と追加録音音源のタイミングを合わせる」ときについて。
元音源に追加録音音源を重ねる場合、追加録音音源冒頭&末尾の無駄(≒無音)時間部分は限界まで削っておきます。
そして元音源を波形編集ソフトで開いて、追加録音音源を重ねるべき位置(開始位置)を探り、
見つかったらその位置から追加録音音源が重なっていくように波形を配置(ミックス)します。
重ねた結果、
「どうもタイミングがしっくりこない」
という場合は、一旦操作を取り消して、再度位置を微調整してやり直すようにします。
テンポにもよりますが、経験的には数十msのずれでもかなりニュアンスが変わってくるように思いますので、
それぐらいのレベルでの調整は最低限行っておくことをおススメします。
次に「元音源と追加録音音源の音量バランスを整える」ときについて。
どちらかが大きすぎる場合、大きすぎる方を下げるようにします。
また、重ねた結果、音量レベルが0dB以上になっているという場合は、
音割れしている(歪んでいる)ことになるので、
双方の音量を下げて再度重ねて音量を確認、
これを問題のない状態(音量レベルが0dB未満)になるまで繰り返します。
4.最後に
以上、音を重ねて録音する(多重録音)方法と特徴を中心にお伝えしてきました。
ここでもう一度要点をまとめておきます。
多重録音の方法は次の2つに大別されます。
- 「リアルタイムで音を重ねる」方法
- 「録音後の編集で音を重ねる」方法
大まかに両者の特徴を述べますと、
- 細かい調整などはできないが手軽なのが「リアルタイムで音を重ねる」方法(パパっとやりたい人向け)
- 手間はかかるが細かい調整が可能なのが「録音後の編集で音を重ねる」方法(じっくり作り込みたい人向け)
といったところです。
まずはどちらか1つの方法に慣れるようにし、
ゆくゆくは状況に応じて使い分けられるようになるとよいかと思います。
また、上で例として挙げたソフトについてもここでまとめておきます。
ソフト(シリーズ)名 | 種別 | 用途 |
---|---|---|
AmpliTubeシリーズ(無料版あり) | ギター/ベースアンプモデリング・ソフトウェア | ギター/ベースの録音時に使用可能 |
SampleTankシリーズ(無料版あり) | ソフト音源 | MIDIキーボード演奏の録音時に使用可能 |
musescore(無料版あり) | 楽譜作成ソフト | MIDIパターン入力 |
ACIDシリーズ | DAWソフト | 録音、MIDIパターン入力、後処理と幅広く対応可能 |
SOUND FORGEシリーズ | 波形編集ソフト | 波形編集の他、録音も可能 |
今回のこの記事が、
- 色んな楽器の音を混ぜてみたい
- カラオケ音源化(ボーカル消去(削減))で失われた楽器パートを補いたい
といった方のご参考になれば幸いです。