Melodyne不要~録音ギターのリズムなどを修正(補正)する方法~
ギターを録音した後、その演奏の出来栄えが気になることがあると思います。
テンポ管理して録音したつもりでも、鳴らすタイミングがずれていたり、音を伸ばしすぎていたり、音を短く切りすぎていたり・・・
しかし、リアルタイムのライヴ演奏とは異なり、リアルタイムではないDTM(楽曲音源制作)では、演奏内容を後から編集できますから、究極的にはいくらでも「演奏を修正」することができます。
とはいえ、一口に「演奏を修正」といっても、演奏の良し悪しを決める要素は様々。
やることが膨大に見えて、なかなか手が動かない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実際、演奏の修正は奥深いものではありますが、比較的修正効果の高い要素として「リズム」や「(音の)長さ」が挙げられます。
これらは演奏のノリ、グルーヴ、フィーリングの根幹に関わる部分なので、うまく修正することによって演奏の印象を一段と良くすることができます。
そうした点を踏まえ、今回はこうしたギター演奏の「リズム」や「(音の)長さ」の修正を行う手順(手動)について解説します。
リズム修正(補正)というと、Melodyneのような市販ソフトを導入する手も考えられますが、こうしたソフトを使わなくてもできることは色々あります。
今回お伝えする手順は、私が使っているDAWソフト、ACID Pro 8での経験に基づくものですが、基本的な操作ばかりなので、大抵のDAWソフトで実践可能な内容だと思います。
それでは以下、詳しくみていきましょう!
1.基本方針
今回お話するのは、以下3つの修正についてです。
- 時間位置ずれ
- 音価過剰(音が長すぎる)
- 音価不足(音が短すぎる)
というのも、これら3つの修正ができれば、リズムや音の長さの修正が可能なためです。
「リズムのずれ」については、これら3つの要素が全て絡んでくることが一般的ですから、
リズムの修正も、これらの要素の修正の組み合わせで実現できます。
また、単純な音の長さの修正は、上記3項目のうち、下2つの修正にあたります(そのままですね・・・)。
従って、以下の手順で作業を進めるとよいでしょう。
- 修正対象部分を分割
- 開始位置を合わせる
- 音価過剰(音が長すぎる)部分の補正
- 音価不足(音が短すぎる)部分の補正
- 微調整&最終確認
以降、この順に沿って説明していきます。
2.修正対象部分を分割
修正したい部分に対し、以下4つの症状ごとに区間を分割します。
- 基準位置に対して音の立ち上がりが遅すぎる部分
- 基準位置に対して音の立ち上がりが早すぎる部分
- 音価過剰(音が長すぎる)部分
- 音価不足(音が短すぎる)部分
処理イメージを以下の図に示します。
音の立ち上がりが遅いか早いかは、他の楽器(ドラムなど)やメトロノーム(曲と同期して鳴らせるもの)と一緒に聴いて判断できればそれでOKです。
判断できない場合は、以下3つの方法をとるとよいでしょう。
- 同時再生するトラックをドラム+ギターとシンプル化する
- 音の立ち上がり位置を波形表示で確認する
- スロー再生して聴く
3.開始位置を合わせる
2で分割した各波形(クリップ)それぞれ開始位置を合わせます。
処理イメージを以下の図に示します。
これも音の立ち上がりを聴きながら合わせていきます。
ですが、判断できない場合は、やはり次の3つの方法をとるとよいでしょう。
- 同時再生するトラックをドラム+ギターとシンプル化する
- 音の立ち上がり位置を波形表示で確認する
- スロー再生して聴く
4.音価過剰(音が長すぎる)部分の補正
3までの手順で、音の鳴り始めの位置だけは合っている状態になっていますので、ここからは音の長さを調整していきます。
調整方法としては次の4つが挙げられます。
- 末尾をカットする(次の音が連続している場合などに有効)
- 末尾をカットして、後ろをフェードアウトさせる(次の音がすぐ来ない場合などに有効)
- 末尾を残して、間をカットする(末尾音が欲しい場合などに有効)
- ピッチを維持したまま、演奏スピードを速くする(音の変化が含まれる場合などに有効)
4-1.末尾をカットする
最も簡単な方法です。
処理イメージを以下の図に示します。
この方法は次のような場合に特に有効です。
- 次の音が連続している
- 最後がブツ切れでも問題ない
- 音の変化(スライディング、チョーキング、アーミングなど)がない
次の音が連続している場合、特に末尾を処理しなくても、次の音とスムーズにつながることが多いです(例外はありますが)。
また、次の音が連続していなくても、ブツ切れ(フェードアウトも何もしない)で問題ない状況もあるかと思います(意図的にそうしたい場合など)。
しかし、音の変化(スライディング、チョーキング、アーミングなど)がある場合は特に注意が必要です。
単純に末尾をカットすると、スライディング、チョーキング、アーミングなどが途中で終わってしまうこともありますので、本当に末尾カットでよいか、見極め(聴き極め)が必要です。
4-2.末尾をカットして、後ろをフェードアウトさせる
4-1で示したような末尾カット処理を行った後、その後ろ(カット後の末尾)をフェードアウトさせる方法です。
処理イメージを以下の図に示します。
この方法は次のような場合に特に有効です。
- 次の音がすぐ来ないのでブツ切れを防ぎたい
- 鳴らし終わりパターンがイマイチ
- 音の変化(スライディング、チョーキング、アーミングなど)がない
4-1でお伝えした(単純な)末尾カットでは、音がブツ切れになって不自然になってしまう・・・
そんなときも、後ろをフェードアウトさせることで自然に音が鳴り終わるようにできるので、違和感のないギター演奏に仕上がります。
また、そこまでブツ切れにはならなくても、音の鳴らし終わり(減衰パターン)がどうもしっくりこない・・・
そんな場合でも、フェードアウトによって減衰パターンを調整できるので、納得のいくパターンにしていけるかと思います。
ただし、4-1と同様、末尾をカットすることには変わりないので、音の変化(スライディング、チョーキング、アーミングなど)が含まれているフレーズの場合、末尾カットによって、それらが途中で終わってしまって不自然になることがあります。
ですので、本当にこの処理でよいか、見極め(聴き極め)が必要です。
4-3.末尾を残して、間をカットする
4-1や4-2は単純に末尾をカットして長さを調整する方法ですが、今度は末尾の音は残して間をカットする方法です。
音の途中をちょん切ってつなぐわけですから、大抵の場合はクロスフェードなどの処理が必要になってきます。
クロスフェードとは、フレーズAの末尾とフレーズBの冒頭を重ね、その重ねた区間において、フレーズAはフェードアウト(音量減少)、フレーズBはフェードイン(音量増加)とする処理のことです。
処理イメージを以下の図に示します。
この方法は次のような場合に特に有効です。
- 末尾よりもむしろ途中の音をカットしたい
- 長さは短くしたいが鳴らし終わり(末尾)の音は使いたい
- 音の変化(スライディング、チョーキング、アーミングなど)が含まれているが、何とか長さを短くしたい
1つ目、2つ目については少し漠然としすぎているかもしれませんので、それぞれについて具体例を挙げてみましょう。
- 1つ目の例:長さは短くしたいが、途中の音でノイズ(開放弦ノイズなども含む)が入っているので、むしろこれを削って長さを調整したい
- 2つ目の例:最後をスライディングで終わらせたので、これは残したい
なお、音が連続的に変化する奏法(スライディング、チョーキング、アーミングなど)の部分で長さを短くする場合、通常最も無難なのは次の4-4で説明する方法(ピッチを維持したまま、演奏スピードを速くする)ですが、
演奏スピードを変えることで音色の方に違和感が出てしまうこともあります。
そんな場合には、ここで説明した方法を試してみるのがよいかと思います。
単純に演奏の間をカットしてクロスフェードでつなぐだけなので、調整が難しいですが、うまくいけば演奏スピードを変えるよりも違和感の少ない演奏に仕上がることもあると思います。
4-4.ピッチを維持したまま、演奏スピードを速くする
音の変化(スライディング、チョーキング、アーミングなど)が含まれているときに特に有効な方法です。
大抵のDAWソフトではピッチを維持したままテンポ(スピード)を変えることができますので、
4-3で紹介した方法(末尾の音を残して、間をカットする)で上手くいかないときには、こちらの方法を使う方がよいでしょう。
ただし、4-3でもお伝えした通り、演奏スピードを変えることによって、音色の方に違和感が出てしまうこともありますので、そのような場合は4-3で示した方法(末尾の音を残して、間をカットする)が有力になってきます。
音色に違和感の出ないテンポ(スピード)変更の範囲については、
私の経験上(DAWソフト:ACID Pro 8)、概ね元のテンポの±20%程度の変更であれば聴感上許容可能という認識です。
ソフト内の処理精度、さらに元音源の音色やテンポにもよると思いますのであくまでも「一つの目安」ということになりますが・・・
5.音価不足(音が短すぎる)部分の補正
長すぎるものを短くするよりも難しく、その分手間もかかりますが、次の2つの方法があります。
- ピッチを維持したまま、演奏スピードを遅くする
- 既存の演奏テイクで時間を埋める
5-1.ピッチを維持したまま、演奏スピードを遅くする
こちらが最も無難な方法です。
4-4でお伝えした「演奏スピードを速くする」処理の逆ですね。
ただし、スピードを変えすぎると音色が変わりすぎてしまい、違和感が生じてしまいますから気を付けましょう。
4ー4でもお伝えした通り、違和感の出ないテンポ(スピード)の変更範囲は±20%以内というのが一つの目安になると思います。
このスピード変更でどうにもならない場合は、次の5-2で示す方法を試してみてください。
5-2.既存の演奏テイクで時間を埋める
こちらの方法は
「演奏スピード変更だと対応できない(音色の変化が気になるなど)」
といった場合に有効です。
伸ばしている部分の一部をコピーしたものを用意し、それで足りない部分を補う(埋め合わせる)のですが、そのままやると音がプチプチと途切れたようになってきれいに繋がりません。
ですので、クロスフェードを利用して違和感が出ないように工夫する必要があります。
処理イメージを以下の図に示します。
対象区間の音の減衰や変化が顕著である場合は特に、貼り付ける部分の選定が一層重要になってきます。
そうした事情もあって、5-1の方法に比べると試行錯誤の回数が多くなる傾向にあり、調整に少々手こずるかもしれません。
6.微調整&最終確認
2~5の手順を実行すれば、ほぼきれいで整った演奏になっているはずですが、改めて全体を通して聴いて以下の点を確認する必要があります。
- リズムに違和感がないか
- 音の長短に違和感がないか
6-1.リズムに違和感がないか
個々の修正作業では視野(聴野?)がどうしても狭くなりがちなので、リズムもピンポイント的な修正になりがちです。
ですので、全体を通して聴いたときに演奏フィーリングがチグハグに感じられることが往々にしてあります。
こうしたところを試行錯誤して修正すると、より良い演奏に仕上がっていくかと思います。
演奏フィーリングがチグハグな例としては、
「前半はモタリ気味、後半は走り気味になっている」
といったパターンが挙げられます。
意図してやる分にはよいですが、少なくとも一定区間における演奏フィーリング(ノリ)は揃えておいた方が違和感が少なく、スマートだと思います。
こうした場合は、モタリ気味の部分をもう少し早める、走り気味の部分をもう少し遅らせる、あるいはその両方を行って、ノリを揃えていくとよいでしょう。
もちろん、全体的にモタリ気味、あるいは走り気味にして統一させるのも、演奏の狙い次第ではOKです。
6-2.音の長短に違和感がないか
こちらもリズム同様、ピンポイント的な修正になりがちですので、全体を通して聴いたときに演奏フィーリングがチグハグに感じられることがあります。例としては、
「前半は音を短めに切った歯切れのよい演奏、後半は音を長めにしたしっとり系の演奏」
といったパターンが挙げられます。
こちらも、意図してやる分にはよいですが、少なくとも一定区間における演奏フィーリング(ノリ)は揃えておいた方が違和感が少なく、スマートだと思います。
こうした場合は、歯切れのよい方をもう少し長めに、しっとりとした方をもう少し短めに、あるいはその両方を行って、演奏フィーリングを揃えていくとよいでしょう。
もちろん、全体的に歯切れよく、あるいはしっとりさせる形で統一させるのも、演奏の狙い次第ではOKです。
7.最後に
以上、楽曲音源制作時に何かと必要になる「演奏の修正」のうち、ギター演奏における修正(リズム、長さ)を行う手順(手動)について解説してきました。
ここでもう一度概要を整理してお伝えします。
まず、リズムずれは以下3つの要素に分解できます。
- 時間位置ずれ
- 音価過剰(音が長すぎる)
- 音価不足(音が短すぎる)
これらを修正していけばよいわけなので、次の手順で進めていくとスムーズです。
- 修正対象部分を分割
- 開始位置を合わせる
- 音価過剰(音が長すぎる)部分の補正
- 音価不足(音が短すぎる)部分の補正
- 微調整&最終確認
「あちこち直したい部分があって大変」
という場合でも、このように問題を整理、分割して一つ一つ直していけば、自分の理想とする演奏に仕上げていけるかと思います。
今回の記事が、DTMでのギター録音&演奏修正などに悩んでいる方のご参考になれば幸いです。