Ozoneの自動マスタリングで市販正規リマスター盤を再現できるか??
(写真はイメージです)
簡単な設定とリファレンス音源(お手本にしたい音源)の指定によって、自動でお手本を参考にしたマスタリングを行ってくれる、Ozoneのマスターアシスタント機能。
いわゆる「Ozoneの自動マスタリング」ですが、
今回は、このマスターアシスタント機能(Ozone 9 Advanced)を用いて、
「LED ZEPPELIN(レッド・ツェッペリン)の旧盤音源に対して、市販の正規リマスター音源と同じような音源を作れるのか」
試してみた結果を中心にお伝えします。
最初に結論を少し述べてみますと、
- 音量:若干の差はあるが、ほぼ狙い通り(平均的には最大でも2dB弱の音量差にとどまっている)
- 聴感:リファレンス(正規リマスター音源)に近い方向は感じるが、少し詳しく聴けばわかってしまうレベルの差異あり
- 結果は再生位置などの条件によって変わるため、見極めが必要
といったところになります。
リファレンスに市販のリマスター音源を指定したので「市販そっくりな音源になるのでは?」と思っていましたが、そう簡単にはいかないようです。
しかし、仕上がった音源自体に違和感はないですし、音量についてはそこそこ市販の正規リマスター音源に近づけることができていたので
「やはりOzone、すごい!」
と思いました。
それでは以下、詳しくみていきましょう!
1.検証方法
DAWソフト上でリマスター対象の音源ファイル(wav形式)を読み込ませ、DAWソフト上でデフォルト設定される余計なEQ、音量設定を除去した後、Ozone 9をプラグインとして使用してマスタリングを行いました。
DAWソフトにはACID Pro 8を使用しました。
以下、対象音源、マスタリング条件について少し詳しく説明していきます。
1-1.マスタリング対象音源
個人的に最も旧盤の音質に不満のある「Led Zeppelin III」の音源を選択しました。
- リマスター対象音源:「Led Zeppelin III」(旧盤CD)をmp3化したものをwav変換した音源(16bit/44.1kHz)
- リファレンス音源:「Led Zeppelin III」(90年代発売リマスター盤CD)をflac化したものをwav変換した音源(16bit/44.1kHz)
1-2.マスタリング条件
マスターアシスタントの設定は以下の通りとしました。
- MODULES:Modern
- LOUDNESS & EQ:Reference
- DESTINATION:CD
1つ目の「MODULES」は、マスタリング処理を行うにあたってOzone内で用意されているEQなどの処理要素の構成方針を大まかに決める設定で、
「Vintage」と「Modern」が選べます。
「Vintage」は「Modern」に比べてやや複雑な構成になることが多そうです(これまでの経験より)。
今回は解析を容易にしたいこともあって「Modern」を選びました。
2つ目の「LOUDNESS & EQ」ですが、今回のようなリファレンス音源(お手本)を指定する場合、上記のように「Refernece」に設定して、該当するファイルを選ぶだけになります。
3つ目の「DESTINATION」は音源用途に応じて設定する項目だと思われますが、これによってマスタリング後の音量上限(ピーク)が変わってきます。
サブスク配信等用だと思われる「Streaming」の場合は-1.0dB、「CD」の場合は-0.3dBで、CDの方が限界ぎりぎりまでピークを許容する傾向にあります。
今回の目的からいえば「CD」の方が適切であると思われるため、「CD」に設定しました。
また、上記3つの設定項目以外に重要となるのが「参照範囲」(便宜上こちらで勝手に命名)。
マスターアシスタント機能では、上記設定を行った後、リマスター対象の音源を再生して自動調整を行うのですが、
大抵の場合、数十秒以内の再生で結果が出る(マスタリングが完了する)ので、対象音源を
「どの時間位置から再生するのか?」
が問題になってきます。
これが私の呼ぶ「参照範囲」であり、これによってマスタリング結果が異なってくるので、適切な位置から再生してやる必要があります。
これに関して、Ozone 9のマニュアルを読むと「最大音量の部分を再生するよう」推奨されているようでしたので、各曲(トラック)最大音量付近の位置を再生するようにしました。
また、リファレンス音源についても、この参照範囲にほぼ近い形で不要部分をカットしました。
このリファレンス音源の処置については、特にマニュアルで言及がなかった(見つけられなかった)のですが、
上記再生位置とリファレンス音源の関係がよくわからなかったため、念のために上記再生位置とリファレンス音源の冒頭部分がほぼ一致するよう、上記のような音源加工を行いました。
2.検証結果
ここでは検証結果を、音量、聴感、といった観点を中心にお伝えしていきます。
2-1.音量
以下は、旧盤(マスター前)、旧盤(マスター後)、正規リマスター(リファレンス)についての各曲平均音量をグラフ化したものです。
- 横軸:トラックNo.(アルバム内の曲番に対応)
- 縦軸:音量[dB]
これだけでも、マスター後(橙)の音量は、ほぼほぼリファレンス(灰)に近い音量レベルが得られていることがわかりますが、
よりわかりやすく、リファレンスからの音量差でみてみましょう。
以下は、各曲の音量差(リファレンス基準)を示したグラフです。
- 横軸:トラックNo.(アルバム内の曲番に対応)
- 縦軸:音量[dB]
いずれもマスター前(青)に比べて、マスター後(橙)の音量差は0dBに近くなっており、これをみてもリファレンスとの音量差が縮まっていることがわかります。
中には、1.9dB(2dB弱)ほどリファレンスよりも小さかったり、1dB強ほどリファレンスを上回ったりしている曲(トラック)もありますが、このあたりがマスターアシスタントの限界なのかもしれません。
そもそも、
「マスターアシスタントで全ての時間位置を再生(参照)していない」
という点も影響している気はしますが、詳細な要因は不明です。
2-2.聴感
まず、旧盤音源(マスター前)と、正規リマスター音源(リファレンス)を比べた場合、全体的な聴感としては、
- 旧盤音源(マスター前)よりも、正規リマスター音源(リファレンス)の方が大音量
- 旧盤音源(マスター前)よりも、正規リマスター音源(リファレンス)の方がシャープ(クリア)な音質
といったことが言えます。
今回得られた旧盤音源(マスター後)は、大音量でシャープ(クリア)な音質の正規リマスター音源(リファレンス)に近づく方向に処理されており、一応
「リファレンスに近づけられている」
といえそうです。
しかし、旧盤音源(マスター後)を細かく聴いてみると
- 音量バランスが異なるように感じられる
- まだまだ正規リマスター(リファレンス)の方がシャープ(クリア)な印象を受ける
といった差異も一部感じられます。
旧盤音源(マスター後)自体に違和感はありませんが、比べて聴いてみると気づけるレベルの差異はあると思います。
2-3.EQなどの調整結果(構成)
基本的に、今回のマスターアシスタント(自動マスタリング)では、
- 「Equalizer」(以下EQ)
- 「Dynamic EQ」
- 「Maximizer」
の3要素によって処理がされていることがわかりました。
以下は、各曲でどのようなEQ設定がなされているのかを表にまとめたものです(一部を除きOzone画面表示の(桁数整理後の)値を記載)。
EQ設定については1~4と番号付けしていますが、これは今回の調整結果で得られたEQ設定点が最大4つあることから、便宜上番号を振ったものです。
(下表、横にはみ出ている場合は横スクロールできます)
トラックNo. | 曲名 | EQ設定1 | EQ設定2 | EQ設定3 | EQ設定4 | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Type | f[Hz] | G | Q | Type | f[Hz] | G | Q | Type | f[Hz] | G | Q | Type | f[Hz] | G | Q | ||
1 | Immigrant Song | Low Shelf | 43 | -1.2 | 8.7 | - | High Shelf | 8258 | 0.8 | 8.7 | |||||||
2 | Friends | Low Shelf | 43 | -1.7 | 8.7 | - | High Shelf | 8000 | 1.3 | 8.7 | |||||||
3 | Celebration Day | Low Shelf | 43 | -1.2 | 8.7 | - | High Shelf | 19208 | 0.2 | 8.7 | |||||||
4 | Since I've Been Loving You | Low Shelf | 54 | -1.6 | 8.7 | Bell | 2196 | 0.01 | 0.3 | - | High Shelf | 19520 | 0.3 | 8.7 | |||
5 | Out On The Tiles | Low Shelf | 32 | -1.0 | 8.7 | - | High Shelf | 11057 | 0.9 | 8.7 | |||||||
6 | Gallows Pole | Low Shelf | 32 | -1.0 | 8.7 | - | High Shelf | 10605 | 1.1 | 8.7 | |||||||
7 | Tangerine | Low Shelf | 22 | -1.5 | 8.7 | Bell | 7494 | 0.1 | 0.2 | - | High Shelf | 8000 | 0.9 | 8.7 | |||
8 | That's The Way | Low Shelf | 22 | -1.2 | 8.7 | Bell | 861 | 1.2 | 0.3 | Bell | 3962 | -1.4 | 0.5 | High Shelf | 18562 | 0.5 | 8.7 |
9 | Bron-Y-Aur Stomp | Low Shelf | 75 | -0.9 | 8.7 | Bell | 980 | 1.5 | 0.6 | Bell | 1798 | 1.1 | 1.0 | High Shelf | 8000 | -0.4 | 8.7 |
10 | Hats Off To (Roy) Harper | Low Shelf | 22 | -1.1 | 8.7 | Bell | 2799 | -0.5 | 0.2 | - | High Shelf | 9087 | 1.0 | 8.7 |
(GはGain(ゲイン)、QはQ値(フィルター作用帯域の幅を決めるパラメータ))
上の表をみると、最も多い設定パターンは
- 低音カット(Low Shelf、Gain負)
- 高音ブースト(High Shelf、Gain正)
であり、シャープ(クリア)な音質の正規リマスター音源(リファレンス)に近づける方向に、マスターアシスタント機能が作用していることがうかがえます。
しかし、それにしてもQ値8.7がやたら目立ちますね~
「魔法の数字」なんでしょうか?w
意味深です・・・
さて、実際の聴感は、もちろんEQ設定だけでは決まりません。
例えば「Maximizer」において、音量を稼ぐべく、全体的にコンプレッション強化の方向で処理がされていることも、高音域寄りな印象の聴感につながっていることでしょう。
なお、その他、マスターアシスタント機能による自動調整の結果として「Dynamic EQ」もそれなりに設定されているようですが、
この要素は挙動がそもそも複雑で考察が難しいと思われるため、ここでは紹介や分析を省略します。
3.最後に
以上、Ozone 9 Advancedのマスターアシスタント機能を用いて、
「LED ZEPPELIN(レッド・ツェッペリン)の旧盤音源に対して、市販の正規リマスター音源と同じような音源を作れるのか」
試してみた結果を中心にお伝えしてきました。
ここでもう一度その要点をまとめます。
- 音量:若干の差はあるが、ほぼ狙い通り(平均的には最大でも2dB弱の音量差にとどまっている)
- 聴感:リファレンス(正規リマスター音源)に近い方向は感じるが、少し詳しく聴けばわかってしまうレベルの差異あり
- 結果は再生位置などの条件によって変わるため、見極めが必要
「正規リマスターとそっくりな音源」とまではいきませんでしたが、
それなりに迫ることができており、改めてOzone 9のマスターアシスタント(自動マスタリング)機能の優秀さを感じました。
できれば、推奨再生位置も自動調整するようにしてくれると、悩む要素がほとんどなくなって、より一層快適になりそうなのですけどねぇ・・・
そのあたりは今後の技術革新に期待したいと思います!