「3つのケーススタディでよくわかるオーケストレーション技法」を読んでみた感想

(写真はイメージです)

今回は、Kindle本としても入手可能な「3つのケーススタディでよくわかるオーケストレーション技法」を、実際に読んでみた感想を交えて紹介します。

ズバリ、こんな方特におススメの内容です。

  • オーケストラ系アレンジの方法をざっくり知りたい
  • オーケストラ/クラシック系楽器特徴知りたい
  • DTMオーケストラ/クラシック系楽器使いたい

バンドサウンドやEDM系サウンドには慣れていても、オーケストラ系サウンドを扱ったことがない人だと、いざオーケストラ系の制作やアレンジをしようと思っても、

  • どのようなアレンジをしたらよいかわからない
  • そもそも楽器の使い方がわからない
  • そもそも楽器の違いがわからない

となってしまうものではないでしょうか?

私もオーケストラで使われるような楽器は演奏したことがないので、興味はあっても

「ちょっとハードルが高いなぁ」

と思っていました・・・

しかし、この本では、

  • 楽器の特徴から学べる
  • アレンジ意図についての解説詳しい
  • 周辺知識解説もそこそこ詳しい

というメリットがあり、これまでオーケストラ系楽器に馴染みのなかった私でも

「よし、いっちょオーケストラアレンジに挑戦してみるか!」

と思えるようになりました。

もっとも、この本自体は入門的な位置付けのものですから、

さらなる学びは、他の専門書、あるいは実践で行っていく必要があるとは思いますが・・・

ともあれ、基本的には「これまでオーケストラ系ノータッチ」なにとっては特に、心強い一冊になると思います。

それでは以下、詳しくみていきましょう!

1.この本の全体的な特徴

(写真はイメージです)

以下2つの観点で説明します。

  • 解説スタイル
  • 取り扱いのある楽器

1-1.解説スタイル

アレンジ作業の実例3つを題材に解説していくスタイルで進んでいきます。

1つ目の例は(この本の定義上、厳密には)「トランスクライビング」といって、管弦楽器用の楽譜を仕立てる作業がテーマになります。

楽譜なしで制作することが多いDTMerなどにとっては、直接役に立つ内容ではないように思われますが、

楽器の音域、帯域、その他特性を考慮したパート分けの話もありますし、

そもそも楽譜の話は何だかんだいって基本ですから、こうしたところも読み飛ばさずに論理展開を追っていくとよいでしょう。

普段は楽譜なしで楽曲音源制作していても、ふとしたときに楽譜が必要になったりすることもあるでしょうから(他のメンバーに演奏してもらうときなど)・・・

さて、この本は制作、編曲サイドをターゲットにしているだけあって、

「この曲でここがこうなっているところが素晴らしい」という答えからの解説ではなく、答えを出すまでのプロセスの解説に重きを置いている印象です。

こうした解説スタイルだと、実践をイメージをしやすく、内容がスッと入ってくるので特に良いように感じました。

1-2.取り扱いのある楽器

本を検討するにあたっては、

「自分の使いたい(使いそうな)楽器は取り上げられているのか?」

という点も気になると思います。

そこで、解説や題材上の楽譜に登場する楽器の例以下に示します。

まずは弦楽器類

  • バイオリン
  • ビオラ
  • チェロ
  • コントラバス
  • ハープ

続いて木管楽器

  • フルート
  • オーボエ
  • クラリネット
  • バスーン(ファゴット)

金管楽器

  • トランペット
  • ホルン
  • トロンボーン
  • チューバ

最後に打楽器類

  • ティンパニ
  • スネアドラム
  • シンバル

オーソドックスな楽器一通り網羅しています。

各楽器の説明量及び説明観点は必ずしも同じではありませんが、

管弦楽器及びティンパニについては、各楽器のよくある使われ方、音域、演奏上の制約などといった特性について、一通り触れられているので、まずは安心です。

もちろん、各楽器奥深いものがありますから、掘り下げる余地は十分あると思いますが・・・

1-3.必要な前提知識

総じて丁寧な解説なので、それほど高い前提知識は必要ないと思いますが、楽譜が頻繁に出てきて解説が進むスタイルですから、

楽譜が読めないと読み進めるのは「つらそう」な気がします。

楽譜なしで、解説と付属音源だけで読み進めることも不可能ではないでしょうが、各パートの関係を視覚的に確認できた方が、理解はしやすいように思います。

なお、こういった専門的な本を読む際によくあるのが「出てくる用語がわからない」という問題。

しかし、この本では、本文中に出てくる用語の一部について、最後の方にある用語集的なもの解説されておりますし、

そこに載っていないが自分が知らない用語は、別途ネットなどで調べることもできるでしょうから、

知らない用語が時々出てくるレベルであれば、それほど困らないでしょう。

2.この本のメリット

形式面内容面に分けて取り上げます。

2-1.形式面のメリット

以下2点あります。

  • 電子版があるので持ち運びに便利
  • 付属音源で、楽譜上の音がどうなるのか確認できる

1つ目「電子版があるので持ち運びに便利」について。

これは、私が本を買う際、特に重視している点です。

この条件にこだわると、選択肢が限られてしまうデメリットもあるのですが、

いくら役に立つ本だといっても、あまり物は増やしたくないですし、移動中などにも気軽に読めるようにしておきたいですから・・・

私は電子書籍版(Kindle)を購入しましたが、Kindleアプリ上で、拡大縮小表示、各セクションへのページ飛びは可能でしたので、読書性には問題なしと判断しました。

2つ目「付属音源で、楽譜上の音がどうなるのか確認できる」について。

これは、音楽モノの本を買う上ではポイントが高いですね。

動画ではなく、音声ファイルではありますが、本があれば特に映像解説の必要もないので十分です。

付属音源ダウンロードができる公式ページ以下です(検索エンジンで普通にヒットする一般公開ページ)。

2-2.内容面のメリット

以下3点あります。

  • 楽器の特徴から学べる
  • アレンジ意図についての解説詳しい
  • 周辺知識解説もそこそこ詳しい

1つ目「楽器の特徴から学べる」について。

オーケストラ系にノータッチな人間の場合、そもそも各楽器の名称は知っていても、どういう特徴があるのかあまり詳しくわかっていないことが多いかと思います。

恥ずかしながら、私もそんな感じで

「ソフト音源はあるけれど、どう使ってよいかわからない」

という状態でした。

そんな人間からすると、簡潔にでも各楽器の特徴を解説してくれているのはありがたいです。

音色面音域面からの解説があり、制作、編曲サイドにとって有益な内容になっていると感じました。

2つ目「アレンジ意図についての解説詳しい」について。

題材となる曲はいずれも短いものですが、

  • 「なぜその楽器(パート)分けなのか」
  • 「なぜ原曲から変えるのか」

などといったことが筋道立てて詳細に解説されています。

この考え方を追っていくだけでも、学べることは多いと思います。

3つ目「周辺知識解説もそこそこ詳しい」について。

アレンジ実例の中で関係してくる音楽理論楽器構造などの話についても少し触れられています。

もっとも、内容の詳細さは、それぞれの専門書に及ばないでしょうが、

アレンジを学んでいく上で突き当たる、こうした周辺知識についての疑問にもある程度答えてくれるかのような解説内容はありがたいです。

特に、楽器の構造に起因する演奏制約などについては、DTMで打ち込みばかりやっているとなかなか気付けない点もあるので、

リアルな打ち込みを追求する上でも役立つ内容かと思います。

3.この本のデメリット

デメリットについても、形式面内容面に分けて取り上げます。

3-1.形式面のデメリット

以下1点あります。

  • 音源ファイル名がわかりにくい

音源ファイル名は題材となる曲名の他、チャプター番号などが付されているのみ、というパターンがほとんどで

「何をどうした音源なのか」

が一目でわかりにくいものが多くなっています("Full"などと付されている一部トラックは大体察しがつきますが・・・)。

リットーミュージックの他の本(ボイトレ系など)では、音源内容に即したファイル名が付けられていることもあるので、

この本も同じようなセンスで

「詳しいファイル名を付けてもらえるとありがたかったなぁ」

と思いました。

ファイル名を見て音源内容が類推できれば、音源だけを聴いて学んだり、

参考にしたいと思ったときに即、目当ての音源を見つけて確認したりできて便利なのですが・・・

こだわる人は、ダウンロード後に自分でファイル名変更してみてもよいかもしれません。

3-2.内容面のデメリット

以下2点あります。

  • 楽器編成選択基準についての説明がほとんどない
  • 打楽器類についての説明が少ない

1つ目「楽器編成選択基準についての説明がほとんどない」について。

編成を決めた後の楽器(パート)分けについては詳しいですが、その前段階「なぜその編成にするのか」については、ほとんど説明がありません。

編成選択はほとんど「天下り的」です。

確かに、編成ありきで作業することもあるとは思いますが、自分の楽曲音源をDTMで仕立てる場合には、編成から考えることがあるはずです。

そうしたことを踏まえると、編成選択についてももう少し解説があれば、

「もっとありがたかったなぁ」

と思いました。

もっとも、そのあたりまで工程をさかのぼると、結局は「自分がどうしたいのか」というところに帰着しそうですし、

そもそも学習用の本ですから、話の都合上どうしても「一般的な編成を挙げて、各々説明していく」スタイルがメインになるのでしょう。

そう考えると「仕方のない面もある」とは思いますが・・・

2つ目「打楽器類についての説明が少ない」について。

ティンパニはそこそこ詳しいですが、それ以外はほとんど出てきません。

最後の方で、スネアドラムやシンバルが出てきますが、他の楽器のような解説はなく、いきなり出てくる印象です。

オーケストラ系の音楽を手掛けるにあたっては、打楽器の使い方も重要になってくるので、そのあたりももう少し詳しく解説してもらえればなぁ、と思いました。

4.この本の活用方法

上で挙げたように、基本的には丁寧な解説で、付属音源もある、という特徴を持つこの本ですが、どのように活用していくとよいのでしょうか?

私が実際読んでみたところ、次のように活用していくのがよいのではないか、と思いました。

  • 付属音源を聴いたり楽譜を見ながら解説を読み込む
  • DAWソフトを利用して実際に打ち込んでみる

以下、それぞれ少し詳しく説明します。

4-1.付属音源を聴いたり楽譜を見ながら解説を読み込む

アレンジ意図などの解説が詳しく、また途中の作業に関する楽譜も載っていますから、

解説を読んで楽譜で確認し、音を想像しながら考えていくだけでも、気付かされることは多々あると思います。

もちろん、付属音源もありますから、その際に音の方も併せて聴くとさらに理解が深まることでしょう。

4-2.DAWソフトなどを利用して実際に打ち込んでみる

この本には楽譜が載っていますから、楽譜に基づいて手持ちのDAWソフト(音楽制作ソフト)やスコアディタで打ち込んでみて、

「自分の環境だとどのような音が作れるのか」

を試してみるのもよいかと思います。

こちらは少々手間がかかりますが、次のような効果が期待できそうです。

  • 楽器(パート)ごとのON/OFFによって各楽器(パート)の効果確認できる
  • 付属音源とのギャップがないか確認できる
  • 自分の制作環境足りないもの確認できる

1つ目「楽器(パート)ごとのON/OFFによって各楽器(パート)の効果確認できる」について。

付属音源だと、ほとんどアンサンブル状態になっているため、各楽器(パート)ごとの再生ができません。

自分の環境で打ち込めば、各楽器(パート)ごとの再生ができるので、

「ある楽器(パート)ON/OFFしてみて、その楽器(パート)の効果(位置付け)を確認する」

といったことができます。

このようにしていくと、さらに深い気付きを得られることでしょう。

2つ目「付属音源とのギャップがないか確認できる」について。

付属音源と同じ楽器であっても、使っている音源が違えば音色なども違ってくるのが一般的です。

手持ちの音源で打ち込んだ後に、付属音源と聴き比べてみて、そうしたギャップがないかを確認し、

さらにはギャップを埋める工夫などをしてみると、自分の環境における制作の練習になります。

ギャップを埋める工夫としては、

  • 音色調整
  • 音量バランス調整
  • 演奏ニュアンス調整

といったことが挙げられます(1つ目の「音色調整」は元々の音源を変えないと難しいこともありますが)。

3つ目「自分の制作環境足りないもの確認できる」について。

これは2つ目の話とも関係するところはありますが、

例えば、自分で打ち込んだ音源を付属音源と比べてみて、

「どうもこの付属音源の音色は自分の環境では出せないな(出したいのに)・・・」

と思うようなことがあれば、

その音色を求めて音源を探すということもできるでしょう。

付属音源がどのような環境で制作されているのかは、本文中にも言及がないため、探し当てるのは困難ですが、

近いものを見つけられるだけでも、制作環境向上が期待できることでしょう。

5.最後に

以上、Kindle本としても入手可能な「3つのケーススタディでよくわかるオーケストレーション技法」を、実際に読んでみた感想を交えて紹介してきました。

ここでもう一度、この本のメリット&デメリットをまとめてお伝えします。

まずはメリットから。

形式面メリット以下2点

  • 電子版があるので持ち運びに便利
  • 付属音源で、楽譜上の音がどうなるのか確認できる

これらの特徴自体、今どきの本としては珍しいものではありませんが、使い勝手の面で重要なポイントかと思います。

内容面メリット以下3点

  • 楽器の特徴から学べる
  • アレンジ意図についての解説詳しい
  • 周辺知識解説もそこそこ詳しい

本の総ページ数自体はそれほどでもないですが、情報密度はかなり高いと思います。

続いてデメリットの方。

形式面デメリット以下1点

  • 音源ファイル名がわかりにくい

本を読みながら聴く分には問題ないですが、音源だけとなると内容がパッとわからないものが多いので不便です。

とはいえ、本の章と内容が頭に入るぐらい、本を読み込んでいれば気にならなくなるかも・・・?

内容面デメリット以下2点

  • 楽器編成選択基準についての説明がほとんどない
  • 打楽器類についての説明が少ない

入門的位置付けの本というコンセプトからすれば、致し方ない面もありますが、

特に2つ目の打楽器類については、管弦楽器に比べて説明があっさりなので、物足りない気がしました。

・・・と、「3つのケーススタディでよくわかるオーケストレーション技法」について、色々メリット&デメリットなど挙げてきましたが、

基本的には「これまでオーケストラ系ノータッチ」なにとっては特に、心強い一冊になると思います。

今回の記事が

  • オーケストラ系アレンジの方法をざっくり知りたい
  • オーケストラ/クラシック系楽器特徴知りたい
  • DTMオーケストラ/クラシック系楽器使いたい

といった方のご参考になれば幸いです。