Tonal Balance Control 2で市販音源(洋・邦ロック)の音の特徴を調べてみた
(写真はイメージです)
今回は、iZotopeのTonal Balance Control 2(Ozone 9 Advanced付属のものを使用)で、洋・邦ロックの市販音源(CDやサブスクサービスなどで聴けるような音源)の音の特徴を調べてみた結果をお伝えします。
特に以下のような方におススメの内容です。
- マスタリングで悩んでいる
- 市販音源のマスタリング状況を知りたい
Tonal Balance Control 2では、音源の周波数特性について模範となり得る「Target Curve」(以下「模範カーブ」と呼ぶ)を視覚的に示してくれるので、
「各周波数帯域の成分がそれぞれどれぐらい含まれていればよいのか」について、ざっくりとした目安がわかります。
それによって、マスタリングの目標がある程度明らかになるのですが、一方では
- この模範に当てはまる市販音源はどれぐらいあるのだろうか?
- 本当にこの模範に従う必要はあるのだろうか?
といった疑問も浮かんできます。
そこで、今回の調査に踏み切ったわけですが、その大まかな結論は以下の通りです。
- 大半の音源は模範カーブの範囲内に収まっている
- 一部の音源は模範カーブの範囲から一部外れている
というわけで、模範カーブはマスタリング時の目安にはなるのですが、
「模範カーブに必ずしもこだわることはない」
ともいえます。
やはりマスタリングにあたっては「自分の描くサウンドコンセプトに合っているかどうか」が重要だと思いますので・・・
それでは、以下、詳しくみていきましょう!
1.調査方法
(写真はイメージです)
今回は洋ロック・邦ロック合わせて8アーティスト・13楽曲音源(全て圧縮音源)・21箇所を対象としました。
同じ楽曲音源でも、箇所(再生位置)によって特性が変わり得るため、気になるところは、同一楽曲音源内で複数の個所を対象としています。
続いて、今回の主な作業手順を以下に示します。
- DAWソフト(ACID Pro 8)上で各音源を1トラックに順々に並べ、マスタトラックにTonal Balance Control 2を挿入
- マスタトラックの音量を-1dbに設定(0dbオーバー回避のための念のための処置)
- Tonal Balance Control 2の設定(Options)で「Average Time」(平均時間)を「5 secs」(5秒)に設定
- Tonal Balance Control 2の「Target Curve」(本記事で「模範カーブ」と呼んでいるものに相当)を「Rock」に設定
- 調べたい箇所の時間位置(始点)から5sほど再生したところの4帯域(Low、Low-Mid、High-Mid、High)ごとの成分大小を確認(再生時間、成分大小は目分量で確認)
なお、4帯域の具体的な周波数範囲は、付属のHTMLマニュアルの情報によれば以下の通りです。
帯域名 | 周波数範囲 |
---|---|
Low | 20 Hz - 250 Hz |
Low-Mid | 250 Hz - 2 kHz |
High-Mid | 2 kHz - 8 kHz |
High | 8 kHz - 20 kHz |
2.結果
4帯域(Low、Low-Mid、High-Mid、High)ごとの成分大小は、数値ではなく、視覚的に示されるので、目分量で確認した結果を、以下の通り5段階の基準で判定することにします。
- 極小:模範下限を下回る
- 小:模範域内だが小さめ
- 中:模範域中央付近
- 大:模範域内だが大きめ
- 極大:模範上限を上回る
以上の基準で判定した結果を以下に示します(下表、横にはみ出ている場合は横スクロールできます)。
アーティスト名 | 収録アルバム名 | 楽曲名 | 対象箇所(始点目安) | Low | Low-Mid | High-Mid | High |
---|---|---|---|---|---|---|---|
羊文学 | POWERS | 1999 | イントロコーラス冒頭 | 大 | 中 | 中 | 小 |
2サビ冒頭 | 大 | 中 | 中 | 小 | |||
MOSHIMO | 触らぬキミに祟りなし | 触らぬキミに祟りなし | 1Bメロ後1サビ冒頭 | 小 | 小 | 大 | 大 |
Mr.Children | 1/42 (Disc two) | ニシエヒガシエ | 2サビ後展開部後ギターソロ冒頭 | 小 | 小 | 大 | 大 |
最後サビ冒頭 | 小 | 中 | 大 | 大 | |||
深海 | シーラカンス | 1回目ドラム+ベース+エレキギターリフ冒頭 | 中 | 中 | 大 | 小 | |
名もなき詩 | 最後サビ冒頭 | 小 | 中 | 大 | 中 | ||
NUMBER GIRL | NUM-HEAVYMETALLIC 15TH ANNIVERSARY EDITION (CD1) | Tombo the electric bloodred | 時間位置00:52(イントロ) | 中 | 極小 | 極大 | 中 |
歌冒頭 | 小 | 小 | 極大 | 中 | |||
SEAPOOL | OK SUGAR ISSUE | Brainwashed wow wow | 歌冒頭 | 小 | 中 | 大 | 大 |
スイート Q ラブ | PICNIC | ドラム+ベース+ギターイントロ冒頭 | 小 | 小 | 大 | 中 | |
時間位置02:41(ギターソロ) | 小 | 小 | 大 | 大 | |||
最後サビ冒頭 | 中 | 小 | 大 | 大 | |||
Sonic Youth | Goo (Deluxe Edition) (Disc 1) | Dirty Boots | 1Bメロ冒頭 | 中 | 中 | 大 | 中 |
時間位置02:52(展開部) | 小 | 小 | 大 | 大 | |||
The Eternal | What We Know | 時間位置00:15(イントロ) | 大 | 大 | 中 | 極小 | |
相対性理論 | TOWN AGE | 辰巳探偵 | イントロ冒頭 | 大 | 極大 | 極小 | 極小 |
シフォン主義 | LOVEずっきゅん | 1サビ冒頭 | 小 | 小 | 大 | 大 | |
The Beatles | Yellow Submarine Songtrack | Nowhere Man | 中間ギターソロ冒頭 | 中 | 中 | 大 | 小 |
ギターソロ終了後歌冒頭 | 中 | 小 | 大 | 中 |
模範カーブを逸脱している「極小」や「極大」も一部みられます。
つまり「市販音源でも模範カーブを逸脱するケースがあり得る」ということです。
これらの結果から、いくつか特徴的な傾向をもつ音源・箇所がみられるので、以降、それらについて取り上げていきます。
2-1.模範カーブと比べて高域寄り
以下の音源・箇所が該当します。
- Sonic Youth「Goo (Deluxe Edition) (Disc 1)」-「Dirty Boots」時間位置02:52(展開部)
- Mr.Children「ONE FORTY-SECOND (Disc two)」-「ニシエヒガシエ」2サビ後展開部後ギターソロ冒頭
- 相対性理論「シフォン主義」-「LOVEずっきゅん」1サビ冒頭
- SEAPOOL「スイート Q ラブ」-「PICNIC」時間位置02:41(ギターソロ)
- MOSHIMO「触らぬキミに祟りなし」-「触らぬキミに祟りなし」1Bメロ後1サビ冒頭
これらの音源・箇所には、模範カーブからの逸脱はないものの、LowとLow-Midが小、High-MidとHighが大、という特徴があります。
高域寄りとはいいながら、特に違和感はなく、むしろクリアで聴きやすい音に感じられます。
2-2.Low-Midが極小、High-Midが極大
これは、
NUMBER GIRL「NUM-HEAVYMETALLIC 15TH ANNIVERSARY EDITION (CD1)」-「Tombo the electric bloodred」時間位置00:52(イントロ)
が該当します。
模範カーブからは外れていますが、実際に該当箇所を聴いても違和感は全くなく、むしろカッコいい音だと思います。
2-3.模範カーブと比べてやや低域寄り
該当するのは以下の通り、どちらも羊文学「POWERS」-「1999」です。
- 羊文学「POWERS」-「1999」2サビ冒頭
- 羊文学「POWERS」-「1999」イントロコーラス冒頭
模範カーブからの逸脱はありませんが、LowやLow-Midが比較的大きいのが特徴です。
聴感上も少し「くぐもった音」という印象が強く、その意味でも納得の結果です(悪い意味ではなく、むしろ生々しさの感じられる魅力的な音だと個人的に思います)。
2-4.模範カーブと比べて低域寄り
これは、
Sonic Youth「The Eternal」-「What We Know」時間位置00:15(イントロ)
が該当します。
先ほどの羊文学「POWERS」-「1999」よりもさらにHigh-MidやHighが小さくなり、Highは極小となっているのが特徴です。
こちらも模範カーブからは外れていますが、実際に該当箇所を聴いても違和感は全くなく、むしろカッコいい音だと思います。
このような「High落ち」(High成分が欠落、あるいは不足している状態)の音は、しばしば否定的に言われがちですが、
サウンドコンセプト上、特に高域を必要としなければ「こういう音作りもアリ」ということでしょう。
2-5.模範カーブと比べてかなり低域寄り
これは、
相対性理論「TOWN AGE」-「辰巳探偵」イントロ冒頭
が該当します。
High-MidやHighがともに極小となっており、かつLow-Midが極大となっているのが特徴です。
先ほどのSonic Youth「The Eternal」-「What We Know」よりも、さらに「High落ち」傾向の強まったものですが、
暖かみのあるシンセ音を中心とした丸っこい聴感が楽しめてよいと思います。
3.最後に
以上、iZotopeのTonal Balance Control 2(Ozone 9 Advanced付属のものを使用)で、洋・邦ロックの市販音源(CDやサブスクサービスなどで聴けるような音源)の音の特徴を調べてみた結果についてお伝えしてきました。
その大まかな結論は以下の通りです。
- 大半の音源は模範カーブの範囲内に収まっている
- 一部の音源は模範カーブの範囲から一部外れている
というわけで、模範カーブはマスタリング時の目安にはなるのですが、
「模範カーブに必ずしもこだわることはない」
ともいえます。
やはりマスタリングにあたっては「自分の描くサウンドコンセプトに合っているかどうか」が重要だと思いますので・・・
というわけで、今回の記事が
- マスタリングで悩んでいる
- 市販音源のマスタリング状況を知りたい
といった方のご参考になれば幸いです。