DTMのバージョン管理に必要な記録の書き方を考える
(写真はイメージです)
今回は、DTMのバージョン管理に必要な、DAWプロジェクトファイルの内容記録の書き方についてお伝えします。
DAWプロジェクトファイルについて、以下のように考えている方に特におススメの内容です。
- これからバージョン管理をしたい
- 既にバージョン管理をしているが、各バージョンの内容説明の書き方に悩んでいる
バージョン管理が必要になってくるのは、制作する楽曲音源の曲構成や音源方向性が一通り決まった後の、比較的長期間にわたる調整作業以降のフェーズである、ということを前提にすると、
調整作業以降のフェーズにおける各バージョンについて、以下の観点で記録することを意識すると、作業再開、はたまた将来的なリメイク作業の着手もしやすくなって、バージョン管理の目的も果たせるかと思います。
- 内容
- 作業進捗
- 確認進捗
- 前バージョンからの変化点
抽象的な表現のため、これだけでは明確なイメージが沸かないかもしれませんが、以下で詳しくみていきましょう!
1.記録するもの(観点)
先ほどもお伝えしました4つの観点を、簡単な説明とともに以下に示します。
- 内容:トラック編成、各トラックの音量、各トラックのプラグイン編成や設定の内容といった、DAWプロジェクトファイルに含まれる情報のうち、特に重要と思われるもの
- 作業進捗:制作フェーズとしてどこまで進んでいるか
- 確認進捗:確認すべきものをどこまで確認したか
- 前バージョンからの変化点:上3つ以外で変えた部分を記述
次に、これら4つの観点の意味付けなどについて少し説明します。
まず、バージョン管理においては、各バージョンのDAWプロジェクトファイルにおける各トラックの設定情報といった、内容そのものを記録するのが基本と考えられます。
しかし、それだけではそのバージョンが、目標に対してどこまで作業を終えた段階で保存したものなのかがわかりません。
そうなると、作業再開時に、前回作業を思い出すところから始めなければならず、思い出す時間のロス、正確に思い出せないリスクが発生したりします。
ですので、作業進捗も記録しておく必要があります。
また、一連の作業の結果を音としてどこまで確認したかがわからないと、作業再開時に「結局全部確認しないと安心できない」となったり、確認漏れが発生するリスクが出てきたりします。
ですので、確認進捗も記録しておく必要があります。
さらに、その確認の結果や、ふと気づいた、などの理由で、一度完了した部分の再調整を行うこともあり、
そのような再調整を行った場合は、作業進捗が前のバージョンと同じ「完了」でも、その内容が異なることになります。
バージョン管理では、こうした内容の違いも把握できるようにしておく必要がありますので、前バージョンからの変化点も記録しておく必要があります。
2.記録の例
(写真はイメージです)
ここでは、上の1でも挙げた4つの観点に基づいて行う記録の例を紹介していきます。
2-1.内容
上の方でも挙げましたが、トラック構成、各トラックの音量、各トラックのプラグイン編成や設定の内容を記録しておくとよいでしょう。
しかし、プラグイン編成や設定となると、その項目は多く、全てを書き留めるわけにいかない場合が多いと思いますので、個々人で特に重要だと思う要素を選んで記録するとよいでしょう。
これらを表の形で記録したときの例を以下に示します(ピアノ・ベース・ドラム・マスタトラックがある場合)。
(下表、横にはみ出ている場合は横スクロールできます)
対象 | 音量[dB] | プラグイン構成 |
---|---|---|
ピアノ | -10 | EQ(プリセット:ピアノ)-コンプ(プリセット:ピアノ) |
ベース | -6 | EQ(プリセット:ベース)-コンプ(プリセット:ベース) |
ドラム | -15 | コンプ(プリセット:ドラムバス) |
マスタ | 0 | EQ-コンプ-マキシマイザー(閾値-13dB) |
2-2.作業進捗
一般に、DAWプロジェクトファイルを開いて行う調整作業は、各トラック(マスタトラックやバストラックも含む)に対するものがほとんどです。
そして、その個々のトラックに対する作業として、複数の作業フェーズ(段階)があることが多いかと思います。
そこで、例えば以下のような要素について、作業進捗(未着手、作業中(作業途中)、作業完了)を記録するようにするとよいでしょう。
- 作業対象:各トラック、マスタトラック
- 作業フェーズ:音配置、演奏ニュアンス調整、音調整
なお、作業進捗(特に、音配置や演奏ニュアンス調整)において「作業中」の場合は、作業完了した(または未確認の)範囲も併せて記録しておくと、特に作業再開時に役立ちます。
これらを表の形で記録したときの例を以下に示します(ピアノ・ベース・ドラム・マスタトラックがある場合)。
(下表、横にはみ出ている場合は横スクロールできます)
対象 | 音配置 | 演奏ニュアンス調整 | 音調整 |
---|---|---|---|
ピアノ | 完了 | 作業中(1番Aメロまで完了) | 未着手 |
ベース | 完了 | 完了 | 作業中 |
ドラム | 作業中(アウトロ以外完了) | 未着手 | 未着手 |
マスタ | - | - | 未着手 |
なお、上の例ではマスタトラックで行う作業として、音配置や演奏ニュアンス調整という作業は発生しないため、これらは記録対象外として「-」としています。
2-3.確認進捗
ミキシング状態での最終確認(モニタリング)だけでなく、その前段階で色々と確認(モニタリング)することがあります。
また、確認といっても、どの観点で確認するのかを明確にしておかないと、漫然と聴いただけで終わってしまう可能性があります。
そこで、例えば以下のような要素について、確認進捗(未確認、確認中(確認途中)、確認完了)を記録するとよいでしょう。
- 確認対象:トラック単体、ミキシング状態
- 確認観点:演奏内容、音色、ノイズ有無
なお、確認進捗において「確認中」の場合は、確認完了した(または未確認の)範囲も併せて記録しておくと、特に作業再開時に役立ちます。
また、確認後に見つかった課題・気付いた点も併せて記録して、次に必要な作業を漏れなく行えるようにしておきます。これらを表の形で記録したときの例を以下に示します(ピアノ、ベース、ドラム、全体(ミキシング状態)を対象とする場合)。
(下表、横にはみ出ている場合は横スクロールできます)
対象 | 演奏内容 | 音色 | ノイズ有無 | 課題・気付いた点 |
---|---|---|---|---|
ピアノ | 完了 | 確認中(1番Aメロまで完了) | 未着手 | なし |
ベース | 完了 | 完了 | 確認中(2番Aメロまで完了) | 2番Aメロでノイズらしき音が聴こえる |
ドラム | 確認中(アウトロ以外完了) | 未着手 | 未着手 | 3番サビでのフィルインパターンを増やす |
全体 | 未着手 | 未着手 | 未着手 | 未着手 |
課題・気付いた点については、そのときのバージョンか次のバージョン以降で、何らか対処方針(保留、処置)を決めて対処していくことになりますが、
その対処進捗の管理方法としては、以下3つが挙げられます。
- バージョン管理とは別に、対処進捗を管理する
- 次の2-4でも説明する「前バージョンからの変化点」の記録として、対処進捗も併せて記入する
- 上記2つを両方行う
2-4.前バージョンからの変化点
これについては、状況によって様々な記録内容になり得るため、自由記述形式で記録するのがよいかと思います。
記録内容の例を以下に示します(ピアノ、ベース、ドラムトラックがある場合)。
- ピアノ、1番Aメロにおけるフレーズをオクターヴユニゾンのものに変更
- ドラム、エンディング直前にタムを中心としたフィルインパターンを追加
- 前バージョンで挙げた課題「2番サビのベースフレーズを1番のパターンと変える」解決のために、ベース、2番サビにおけるフレーズを変更
ここで例示したような情報は、上3つの記録(内容、作業進捗、確認進捗)には入れられず、表などにもまとめにくいものです。
3.最後に
以上、DTMのバージョン管理に必要な、DAWプロジェクトファイルの内容記録の書き方についてお伝えしてきました。
記録は面倒な作業であり、自動化できるところがあれば自動化したいところですが、
特に進捗の記録は、完了したかどうかなどは結局自分の判断ですから「ファイルから自動出力」というわけにもいきません。
2-1で挙げた「内容」については、まだ自動化の余地はあるかもしれませんが、
それでも、プロジェクトファイルからその内容をテキスト情報などに変換するのは難しいことが多いかと思います。
ともあれ、今回の記事が、
- これからDAWプロジェクトファイルのバージョン管理をしたい
- 既にDAWプロジェクトファイルのバージョン管理をしているが、各バージョンの内容説明の書き方に悩んでいる
といった方のご参考になれば幸いです。