ミックスボイスもカバー??ボイトレ本「禁断のボイストレーニング」を読んでみた
(写真はイメージです)
今回はKindle本としても入手可能なボイトレ本「禁断のボイストレーニング: 伝説のボイストレーナー達は何を伝えたかったのか」を、実際に読んでみた感想を交えて紹介します。
ズバリ、こんな方に特におススメの内容です。
- 定評ある理論に基づいてボイトレしていきたい
- ミックスボイスを出したい
- 発声を強化したい
「禁断」とありますが、内容自体はベルカントメソッドという、いわば昔から定評のある考え方に基づいた展開となっており、そこまで奇をてらった印象は受けませんでした。
さて、最初にこの本がどんなものなのか、そのポイントをいくつかお伝えしておきましょう。
まず、この本でよく書かれている(カバーされている)こと。
- 発声に関係する筋肉の話
- ミックスボイス習得につながる理論の話とトレーニング
なお、この手の本のお約束といってもよい(?)、解説の参考用及びトレーニング用の音源もあります(限定公開のYouTube動画として)。
逆に、この本で全く(あるいはほとんど)書かれていない(カバーされていない)こと。
- フレージングのトレーニング
- ベルカントメソッド(リード、フースラー)に批判的な意見
- 機材やパフォーマンスの話
- デス声の話
カバーされていないことの方が多く挙がってしまっていますが、筋肉の話はかなり詳しい部類に入ると思いますし、
逆に言えば解説やトレーニングの内容が絞られている分、
「この本で何をすれば良いんだろう?」
と悩みにくいのがメリットではないか、と思います。
それでは以下、詳しくみていきましょう!
1.よく書かれていること
(写真はイメージです)
冒頭でもお伝えしましたが、この本でよく書かれていることは以下の通りです。
- 発声に関係する筋肉の話
- ミックスボイス習得につながる理論の話とトレーニング
以下、それぞれ少し詳しく説明していきます。
1-1.発声に関係する筋肉の話
ボイストレーニングにおいて、イメージ先行の解説がなされることはよくありますが、この本はどちらかというと理論先行といった印象です。
本の前半では発声に関係する筋肉の話がかなり詳しく展開されています。
「詳しく」といっても、その方面の知識に乏しい私のような人間が感じた印象で、専門家からすると物足りない点があったりするかもしれません。
ここまで詳しく解説されているのは、非常にありがたいのですが、はっきりいって理解は「かなり難しい」です。
自分の身体のことなのですけどね・・・
説明の折々、解説図も挿入されているのですが(Kindle版だと図の拡大表示も可能)、認識する図と身体感覚がリンクしないため、思考と想像を繰り返して理解していくしかない印象です。
また、筋肉の名前がいろいろ出てくるのですが、ゴリゴリの漢字ネームでなかなか頭に定着しません。
そんなわけで、この本の前半(理論部分)は、特に読みこなしが難しいのですが、
逆に、ここまで難しいということは、それだけレベルアップも期待できるということで、読む価値は大いにあるかと思います。
1-2.ミックスボイス習得につながる理論の話とトレーニング
特にタイトルでは謳ってはいないため、この本を手にとった当初、この方面の話を期待してはいなかったのですが、ミックスボイスについても言及があります。
といっても「ミックスボイス」というキーワードが出てくるのはかなり後半になりますが・・・
後半になると、「アンザッツ」と呼ばれる伝統的なトレーニング(地声、裏声をさまざまな形で発声する)の話が出てきて、その流れでミックスボイスについても議論が展開されていきます。
2.全く(orほとんど)書かれていない内容
冒頭でお伝えした通り、書かれている内容がかなり絞り込まれた本ですし、何よりボイトレ、歌の練習には様々な観点がありますから、カバーしていない項目がどうしても多くなってしまいます。
ですので、この本で書かれていないことを全列挙することは不可能ですが、
この本のイメージがわかるように、一部列挙していこうと思います。
ここで挙げるのは、冒頭でも紹介した以下4点。
- フレージングのトレーニング
- ベルカントメソッド(リード、フースラー)に批判的な意見
- 機材やパフォーマンスの話
- デス声の話
以下、それぞれ少し詳しく説明していきます。
2-1.フレージングのトレーニング
トレーニングメニューは、ロングトーン(声を長く伸ばす)がメインで、フレーズといえるものはほとんどないといってよいと思います。
音程移動が全くないわけではないのですが、よくあるスケール的なもの、フレーズといえるほど複雑なものはなく、シンプルに
「発声にフォーカスした本」
という印象を受けました。
2-2.ベルカントメソッド(リード、フースラー)に批判的な意見
この本のベースとなっている思想(理論)はベルカントメソッドというものです。
この本では特に、過去にこれを研究したリード、フースラーという人物の著作などからの言葉の引用、それに対する筆者の解釈を主軸に話が展開されています。
文中、これにそぐわない考えなどを否定している部分はありますが、
逆にベルカントメソッドに対する批判的な意見などが紹介されていないため、
「本当にこれを信じてよいのだろうか?」
という疑問が逆に残ります。
確かに、ほとんど何も知らない最初からごちゃごちゃ色んな思想を紹介されても「何が何だか」状態となり、混乱のもとになりかねないとは思いますが、
既にして、様々な考えが広がっている現代ですから、たとえ筆者が特定の理論を推すにしても、
「ある程度相対化して紹介してほしかった」
と思いました(そんな視点が未だ出てきていないのかもしれませんが)。
2-3.機材やパフォーマンスの話
個人的には、ボイストレーニングさえできればよいので、こうした話は必要ないと思っていますが、
「ボーカルに関する総合的な情報が欲しい」という方もいらっしゃるかもしれませんので、ここで挙げておきます。
この本はもう純粋にボイストレーニングに関する本といってよく、
マイクの使い方やステージパフォーマンスなど、レコーディングやライヴにおいて直接役立ちそうな情報は書かれていません。
このあたりの話を重視する方は別の本を探した方が良いかと思います。
2-4.デス声の話
これも個人的には、出したいとも思っていないので、書かれていなくてもよいのですが、
この手の声を出したい人もいらっしゃるでしょう。
残念ながらデス声については一切言及がないため、これが重要という方は別の本を探した方が良いかと思います。
3.この本の活用方法
上の1、2では、この本に書かれていること、書かれていないことを中心にお伝えしてきました。
それらを踏まえ、ここではこの本の活用方法について、私の考えるところを述べていきたいと思います。
上でもお伝えした通り、この本はざっといえば、前半に筋肉含めた理論の話、後半にトレーニングの紹介、といった流れになっていますので、
以下の手順で活用するのがよいと思われます。
- 発声の原理を知る
- 練習方針と目標を立てる
- 練習に励む
以下、それぞれ少し詳しく説明していきます。
3-1.発声の原理を知る
これによってイメージに依存したボイトレからの脱却が期待できます。
ただ、筋肉をじかに見られるわけではなく、実践時は結局イメージが必要になると思われますが、
身体感覚、イメージ、理論的理解の3つが少しでもつながると、地に足のついた練習ができるかと思われます。
3-2.練習方針と目標を立てる
この本で推奨されていること、よくないとされていることを確認し、
それらと今の自分の状態(傾向)を比べて、
- 「自分は何が足りていないのか」
- 「自分は何を強化していけばよいのか」
を考えていくと、練習方針、目標が見えてくるかと思います。
この本では、説かれている内容もトレーニング内容も絞り込まれているので、練習方針を立てる上で考えるべき観点もそう多くはないですから、道筋は立てやすいかと思います。
私の場合は裏声の強化が急務になりそうですので、この本の説明内容と練習用音源を活用しながら、裏声系メニューを特に重視してトレーニングに励んでいこうと思います。
3-3.練習に励む
練習用、参考用音源はYouTube動画(限定公開)として用意されています。
練習メニュー数はそれほど多くはないですが、逆にいうとそれだけフォーカスして実践できるメリットがあるとも言えます。
ただ、これはボイトレの宿命でありますが、自由に声を出せる環境が必要であるため、自宅では難しい場合が多いかと思います。
これについては、特に本の中で推奨されているわけではないのですが、個人的には防音マスク系グッズを活用して実践するのが良いと思われます。
防音マスク系グッズの例としては、ウタエット(シリーズ)やBELTBOXなどがあり、このブログでも様々な観点で取り上げていますので、興味のある方はご参考にしていただければ、と思います。
例えば防音効果の話なら、
使い方の話であれば、
といったところです。
4.この本のメリット、デメリット
ここでは本の説明スタイルや使い勝手的なところも含めて、私が感じたメリット、デメリットを挙げていきます。
この本を検討される場合のご参考になれば、と思います。
まずメリットとしては、以下3点が挙げられます。
- 少なくとも理論部分までの説明は丁寧
- 練習用/参考用音源がある(YouTube動画(限定公開)形式、ほとんどはピアノ+一部お手本ボーカルのスタイル)
- 理論部分の引用元が絞られているので論旨がわかりやすい
上で述べてきたことと一部重複しますが、やはりこのあたりがこの本の醍醐味だと感じました。
続いてデメリットですが、以下4点が挙げられます。
- トレーニングで「声を当てる」といった表現がいきなり出てきて戸惑う
- YouTubeリンクが各箇所に散らばっていて、練習時に使いづらい
- 付属音源はYouTube動画形式なのに表示情報が少ない
- 他流派(反対派)との相対関係がわからず、この本の立ち位置がわからない
あれ、メリットの3点よりも多くなってしまいましたね・・・
このあたりの特徴はこれまで述べてこなかったところも多いですので、以下で少し詳しく説明します。
4-1.トレーニングで「声を当てる」といった表現がいきなり出てきて戸惑う
理論部分の解説は詳しかったのですが、トレーニングでの声の出し方は文章を読んでも容易にはわかりません。
「声を当てる」といわれても、音はそんなにピンポイントで当てられるものでもないですし・・・
などと思ってしまいました。
理論ではイメージに依存しない説明が可能でも、実践となると、身体感覚を頼りに、直接見ることのできない筋肉を動かさなければならないですから、
結局、トレーニング者が適切に筋肉を動かせるような「イメージ的説明」がどうしても必要になってくる・・・
という事情なのかもしれません。
もし将来、筋肉を見ながらボイストレーニングが行える環境が出てきたら、この状況も少しはマシになるかもしれませんね。
4-2.YouTubeリンクが各箇所に散らばっていて、練習時に使いづらい
参考音源やトレーニング音源は、YouTube動画(限定公開)として用意されており、文中の要所要所にリンクが記載されています。
Kindle書籍の場合、これらの記載リンクを叩けば、YouTubeページに遷移します。
これはこれでありがたいのですが、
「文中に出てきたリンクをまとめたリストページが別にあれば、もっと使いやすくなったのに・・・」
と少し残念に思いました。
確かに、最初のうちは本の内容を参照しつつ、YouTube動画(音源)を開いてトレーニング、というスタイルなので、
文中の要所要所のリンクが重宝するのでしょうが、
慣れてくれば本の内容は頭の中、あとは「ひたすらトレーニングだけしたい」という状況になることが多いでしょうから、そのような場合は、
「リスト化されたYouTube動画リンクをポチポチ押してトレーニングを進めていく」
スタイルでやっていきたくなるものだと思います。
4-3.付属音源はYouTube動画形式なのに表示情報が少ない
動画に表示されるのは最低限のタイトル情報のみで、それ以上詳しい情報はありません。
せっかく映像付きの動画形式でアップロードしているわけですから、
「静止画でもよいのでトレーニングに役立つ説明などを表示してほしかったなぁ・・・」
と思いました。
例えばトレーニング(アンザッツ)の場合、それぞれのメニューで声の出し方、鍛える筋肉が違ってくるわけで、
そうした情報を動画でも表示してくれれば、トレーニングももう少しやりやすくなると思います。
本を何度も熟読して、内容が頭に入っていれば、動画など見なくても、音だけでトレーニングできるのでしょうが、最初はなかなかそうもいかないですので。
4-4.他流派(反対派)との相対関係がわからず、この本の立ち位置がわからない
これは既に2-2のところでお伝えした通りですが、この本の元になっているベルカントメソッドに対する批判的な意見などの紹介がなく、この本の立ち位置、思想や理論の限界などがわかりません。
どんな思想や理論にも限界はあると思うので、そのあたりを踏まえた上で紹介してもらえると、より「ありがたい本」になったかと思います。
5.最後に
以上、Kindle本としても入手可能なボイトレ本「禁断のボイストレーニング: 伝説のボイストレーナー達は何を伝えたかったのか」を、実際に読んでみた感想を交えて紹介してきました。
最後にもう一度要点を振り返ります。
まず、この本でよく書かれている(カバーされている)こと。
- 発声に関係する筋肉の話
- ミックスボイス習得につながる理論の話とトレーニング
なお、この手の本のお約束といってもよい(?)、解説の参考用及びトレーニング用の音源もあります(限定公開のYouTube動画として)。
逆に、この本で全く(あるいはほとんど)書かれていない(カバーされていない)こと。
- フレージングのトレーニング
- ベルカントメソッド(リード、フースラー)に批判的な意見
- 機材やパフォーマンスの話
- デス声の話
カバーされていないことの方が多く挙がってしまっていますが、筋肉の話はかなり詳しい部類に入ると思いますし、
逆に言えば解説やトレーニングの内容が絞られている分、
「この本で何をすれば良いんだろう?」
と悩みにくいのがメリットではないか、と思います。
というわけで、今回の記事が、
- 定評ある理論に基づいてボイトレしていきたい
- ミックスボイスを出したい
- 発声を強化したい
といった方のご参考になれば幸いです。